フランスで日本庭園講習会の講師を担当しています

「日本の庭」を求める声に応えてフランスへ。

米山庭苑の代表、米山拓未は2017年からフランスで日本庭園作庭講習会の講師を務めています。※このプロジェクトは寒川の星宏海氏と共同で進めています

最初のきっかけは、とあるフランス人のガーデナーが、「日本の庭づくりを深く知りたい」と連絡をくれたことでした。

潤沢な予算があるわけではなく、正直、初年度は持ち出しもあったため一度は悩みましたが、彼ら彼女らの熱意に突き動かされ、渡仏しました。
2017年、2018年、2019年と回を追うごとに講習の規模が大きくなり、『自然と共存する』という日本の伝統的な文化や考え方が伝搬していく感触は、何にも変え難い経験でした。

2019年のフランス造園講習会
2019年の講習会の様子。2017年のスタート当時には考えられなかったほど多くのヨーロッパの庭職人が参加した。

残念ながら、2020年と2021年はコロナ禍のため開催が延期となりましたが、日本の文化を受け継ぎ、伝承していく日本の庭師として、これからも活動を続けていきます。

【2017年】「日本の庭を知りたい」。そう聞いたら動くしかなかった。

2016年のある日、このホームページのお問い合わせフォームから「日本の庭づくりを教えてほしい」と、英語の長文メッセージがやってきました。ご覧のとおり、米山庭苑のホームページの記述は、日本語だけです。どうやって検索したのか、このホームページの何を見たのか、最初はまったくわかりませんでした。しかし、何度かやりとりを重ねるうちに、メールをくれたオリビエさんの求めていることがわかってきました。

  • フランス人のガーデナー
  • 日本の庭に興味がある
  • 「知りたい」という欲求が高くなり、Google翻訳などを使って、ローラー作戦で日本の庭師のホームページを見ていた。
  • 私の施工写真を見て、この人の技術を知りたいと思った。

とのことです。

さらに聞いてみると、講習費用は、参加者を集めて工面できたとのこと。でも、渡航費や宿泊費はないらしいのです。

フランス行きの飛行機。
2018年度に乗ったフランス行きの飛行機。

やりがいはあります。でも、経費は持ち出しになるのか、と正直なところ感じました。また、弟子たちを育ててきたとはいえ、私が現場を抜けてしまうと、1週間程度も現場に穴をあけてしまいます。

「行ってあげたい」「どうしよう」と、人知れず悩みました。親方はビシッとしていなければならないという信念があるので、あくまでも人知れず、です(笑)

現場は、事前に段取りをうまくすれば、しばらく抜けても問題ないようにできそうです。あとは、経費。そう考えていたときにまたオリビエさんからメールがきました。

「絶対にあなたに来てほしい。尊敬する日本の庭づくりを知りたい。伝統を感じたい」
「宿泊先は確保できた」

米山庭苑にも若い子たちがいますし、支部長を務める日本庭園協会神奈川県支部にも若い子たちがいます。彼らにも、もちろん熱意を感じますが、ここまでギラギラとした直接的な欲求をぶつけられたことは久々でした。

人が庭をつくり、人が庭を使い、人の心が感動する。
すべては、人のつながりから。

2017年の講習会で据えた蹲踞(つくばい)。植栽も相まって良い雰囲気に仕上がりました。

仮に平均寿命まで生きても、あと30年とちょっとの人生。目の前に、私を日本の庭師の代表と思ってくれている人がいる。そう考えると、答えは自ずと出ていました。経費とか細かいことなんて、言っていられない。
日本でも、一部の自社仏閣の庭や観光地を除き、伝統的な庭の文化は斜陽産業とされています。「ここに、私が受け継いできた技術を知りたい人がいるのだ」。もう、それだけで十分な動機でした。

2017年10月。私はパリ郊外にあるミレモン城にいました。オリビエさんが用意してくれたのは、宿泊先と庭づくりの場。それが、中世から残るミレモン城だったのです。

フランスで日本の庭づくり講習会の会場および宿泊施設となった、パリ郊外のミレモン城。

ここで、共同生活をしながら1週間かけて庭をつくります。初年度のテーマは茶庭。蹲踞を据えて、飛び石を打つことはもちろん、延段や三和土もつくります。誰もが未経験の技術を使って、教えながら庭をつくるので、カツカツの日程でした。

座学、実習を繰り返して庭をつくっていくわけですが、寝食をともにしながらの庭づくりは、絆や連帯感が圧倒的に高まります。

パワーポイントで、作業の内容の共有はもちろん、なぜこのようなものが作られてきたのか、背景も含めて座学用の資料を用意しました。力作です(笑)

昼食や夕食も、お城の中にあるキッチンを使って、みんなで調理して、ごはんを囲む。誰にとっても、特別な経験。私にとっても、もちろん特別な時間でした。

講習を通じて一気に、日本の庭の心がわかったかと言えば、強くは「教えることができた」とは言えません。膨大な先人たちの時間の蓄積があり、いまの日本文化があるのですから。しかし、彼ら彼女たちにあったのは、積極性です。能動的に、どん欲に何でも学ぼうとする。そして、日本のことが大好き。日本の講習会との大きな違いは、質問がすぐに飛んでくるところでした。

熱意が高い参加者たちに囲まれながら、日本の庭に脈々と受け継がれてきた伝統を継承しました。

日本でも庭づくりの講師をすることもあります。その時に感じていたのは、みんな素直だけれども、たくさん質問をぶつけてこないということです。それが日本人らしさなのかもしれませんが、私にはフランスの人たちの方が性格に合っているかもしれないと感じました。

「これは、こうすればいいのか」「あれは、どうやってやるのだ」「難しい」「やった!できた!」。庭づくりを進めていくほどに、いろんな声があがります。そうしているうちに、不思議なことに気付きました。

飛石も、歩き方やお茶の作法を考えて据えていきます。

私はフランス語なんて、ほとんどわかりません。でも、感情がこもった言葉はわかるのです。また、通訳の方に入ってもらった座学の時はさておき、特に驚いたのは、実技の時。現場に入るとみんな黙々と作業をするのですが、どこか心の中で通じ合っているのです。こうした職人同士の不思議な連帯感は、とても心地よいものです。

2017年度の参加者たちと。ここで徹底的に庭づくりができたことで、後の2018年、2019年につながっていきます。

2017年は数人の講習会でしたが、スタートとしてはそれぐらいの規模で良かったのかもしれません。心と心が通い、技術の伝承も、とてもうまくいった感触がありました。とても充実した時間を、みんなありがとう。何よりも、自然を敬うという日本の心が通じた感触がうれしかったです。

いまはSNSの時代です。私も日本に帰ってから、御多分に洩れずFacebookやブログを使って「フランスで講習会をやった」「みんなの熱気がすごかった」「茶庭をみんなでつくった」と発信しました。ちょっと英語にも翻訳ました。

するとある日、その記事にこれまでにないほど、「いいね!」のクリックがありました。フランスの教え子たちが、私の記事をシェアしてくれたのです。さまざまな国の人が「次は呼んでほしい」「日本の庭は美しい」と声をかけてくれました。

【2018年】現地の材料だけで庭をつくる。庭師にとって最も大切なこと。

そして、2018年。参加者は一気に増えました。オリビエさんと決めたテーマは、建仁寺垣と石組。私も特に得意なことなので、ぜひやりたかったのですが、ひとつ問題が立ちはだかりました。

それは、材料です。特に竹が手に入りません。大陸の竹は孟宗竹のように肉厚で、垣根には使いづらく、また、フランスに竹はないという情報も入っていました。

オリビエさんに、「材料の点で難しい」と、正直に話しました。すると、ミレモン城から北に車でちょっと行ったところに、竹林を見たことがあるというのです。早速、許可をもらってそこの竹を割ってもらいました。日本で外国の竹というと、使えないイメージがどうしてもあり、期待はしていなかったのですが、なんと、日本の真竹のように真っ直ぐで肉が薄い竹があったのです。

現地の竹を使って竹垣を作る意義を、技術よりも先に伝えました。

「これを使えば竹垣の講習会ができる!」。その結果を聞いたオリビエさんは竹林の地権者と話をしました。結果は、快諾。「そんな素晴らしいことに使うのならば、ぜひ、どんどん使ってください」とのことでした。

棕櫚縄はさすがに持っていきましたが、現地の材料だけで庭をつくれてこその庭師です。建仁寺垣や石組の技術も大切ですが、最も大切なことを教えることができて、うれしかったです。

2018年の庭づくりの主用部分。参加者の誰もが懸命に打ち込んだ結果です。

作業としては、竹を割ることすら初めてという人ばかりでしたが、昨年と同じくみなさんのやる気が充満していて、とても良い講習会になりました。棕櫚縄を使った男結びをしようとしましたが、やはりこれは一朝一夕ではできず、略式ではありますが、みんな喜んで覚えていました。

2018年の庭づくり講習会inフランスの参加者たちと

夜にお酒を飲みながらみんなで話をしていた時に、誰かが「情熱のセミナー」と言ってくれたことは、とても光栄なことです。何よりも大切なものは、パッションだから。

毎夜おこなわれた懇親会。今日までの作業の振り返りや、明日の作業の期待と希望を熱い思いでみんな話していました。

【2019年】空間や植栽を活かす、石組、版築、洗い出しの技法を伝える。

2019年の講習会も、準備に難関が待ち構えていました。テーマは版築と洗い出し。そう、泥がなさそうだと直感しました。竹の時のように、オリビエさんに探してもらうにしても、適した泥というものがあります。私自身も、泥の良し悪しは手で握った感触で確かめているだけに、それを口で伝えるのは至難の業でした。

セーヌ川沿いでオリビエさんが発見した黄土。これで版築がつくれます。

それを伝えると、オリビエさんは驚きの行動に出たのです。なんと、日本にやってきて、私の現場で一緒に働き、泥の感触について教えてほしいというのです。しかも、飛行機代は自腹で。さすがに、この熱意には感動しました。

一緒に米山庭苑の現場で働く中で、泥を使うときがありました。そこで、オリビエさんに握らせ、「この感触を絶対に忘れるな」と念を押した数日後に彼はフランスへと帰ったのです。

フランスの土と泥だけでできた版築。この時は誰もがわくわくします。実際にかなりの歓声が上がりました。

さらにしばらくして、オリビエさんからメールが届きました。セーヌ川沿いのとある場所に、そっくりの黄土の泥があるというのです。なんと、サバ土や真砂土もあるとのこと。これには驚きました。フランスにはそのようなものはないと、文献にも出ているからです。

2019年の講習会は、オリビエさんの責任感と積極性で開催されたようなものです。現地の材料だけで庭をつくる。昨年に続いて、ロシアやイタリア、オーストリアなどからもさらに増えた参加者たちに、大切なことを伝えることが、またできました。また、この経験は私の心の中で、努力して探せば材料は出てくるし、現地の材料だけで日本の庭はできるという確信に変わっていきました。

2019年の庭づくり講習会inフランスの参加者たちと。ヨーロッパの各国からこの講習会だけのためにミレモン城に集結。

【2020年】COVID-19の蔓延で開催延期に。しかし、夢と希望はまだまだ続く。

「次は、もっとすごいことになる!」。私も、オリビエさんも、仲間達も確信していました。しかし、2020年の初頭に流行した新型コロナウイルス感染症により、開催を断念。今年の2021年も様子見とはいえ、開催は危うそうです。2022年こそは!。私たちは、意を新たに動き始めました。この活動、ぜひ、注目してください。

2019年につくった枯山水。参加者の中にも興味を持つ人は多数いました。

たとえ、世界中の文化が異なる人同士でも、共存共栄していけるのです。日本の庭は、まさに自然と人の共存共栄を形にしたもの。それを学び合う仲間同士は、共存共栄していけます。

また、日本の文化には「馴染む」という言葉もあります。ここまで3年間走り続けてきて、ちょっと間を置いて馴染ませてみると、みんなの感じ方も変わってくるのかなとも前向きに考え始めました。自然素材を使う良さは、まさに馴染むことにあるのですから。

日本や庭というものが媒介になり、私たち日本人が先人の時代から培ってきたものを通じてつながる。こんなに素晴らしい体験ができること自体、幸せ者です。

参加者のみんなの熱意はすでに庭という形として残されています。次に会う時に、馴染む楽しさも伝えられたらと考えています。

余談

なんと、2018年の2回目の講習会には、ミレモン城のオーナーさんが出迎えてくれました。ミレモン城の中は、これから活躍するであろう若手のアーティストの作品が飾られているなど、オーナー様は文化の継承に積極的な方です。この時も、自分の敷地を提供したものが、どのように使われているのだろうと興味を持って見に来てくださいました。後で聞いたところによると、ミレモン城のお抱えのガーデナーたちが、「すごくおもしろいことをやっている」と報告したことで、オーナー様が来てくれることになったそうです。

お会いしてよく話を聞いてみると、日本人のクォーターらしく、祖父母の代に日本人がいるとのこと。日本文化をかなりご存知の方で、だからこそ日本の庭を作るというプロジェクトにも、快く場所を提供してくれたのだと思います。この場を借りて、あらためて感謝申し上げます。

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