道具を愛する庭師として
良い道具を長く愛用することが、庭師の基本。
私たち米山庭苑が最も大切にしているのは、「自然素材と手仕事の可能性」です。現代の庭づくりでは予算と工期が重視されることが多く、工業製品や大量生産品を使うことが慣習になっていきました。庭師たちが先人から受け継いできた仕事が忘れられつつある時代が長く続いたのです。しかし、私たちは自然素材の持つやさしさや温かさ、手仕事だからできる美しさや愛おしさを忘れずに、日々の仕事で可能な限り自然素材と手作りの仕事に取り組んできました。その手の延長にあり続けたのは、同じく手仕事で作られた道具たちです。今、時代は緑や持続可能性を求めています。自然素材や手仕事の大切さが見直されているのなら、あなたの庭に少しでも潤いとナチュラルを。米山庭苑の道具たちも、ポテンシャルが発揮できる機会を喜んでいます。
米山庭苑の道具に対する考え方について
道具を大切にするのは、米山庭苑の伝統になりつつあります。公私ともに「作り手が見える」プロダクトを愛する親方の米山拓未の影響もあり、スタッフたちの道具に対する姿勢も向上してきました。とあるスタッフから話を聞くと、「鍛冶屋さんが手打ちした道具を実際に使ってみると、高い性能のまま長く使えることがわかりました」「メンテナンスをすることも庭師の仕事のひとつ。何よりも楽しいです」「歴史や伝統とつながっている感覚がうれしい」とのことです。造形的なセンスは庭師それぞれかもしれませんが、庭を愛する気持ちやお客様を大切にする気持ちは、道具に対する考え方と扱い方に現れると私たちは信じています。
親方・米山拓未の道具に対する考え方
道具を大切に扱う米山庭苑の姿勢の原点には、親方・米山拓未の考え方が根付いています。そこで、米山拓未がなぜ道具にこだわるのかをお話します。
米山:作り手の表情や姿が見えるプロダクトを愛用するのは、仕事の道具だけではありません。服やカバン、靴、アクセサリー類、車のカスタマイズなども同じこと。高級ブランド品のようなものではなく、実際に作り手と話をしながら作られていくことで、私の中に愛着やストーリーが生まれていきます。私は、その心の動きが大好きですし、それら作り手が見えるプロダクトを身に付けたり扱ったりしている時に幸せを感じます。
もちろん米山庭苑でも、トリマーやブロワーなどのエンジン工具・電動工具も使用します。油をさし、使用前には状態をチェックするなどメンテナンスは欠かしませんが、やはり私は手仕事で作られたアナログの道具が大好きです。姿も美しく、思いや時間を包み込んでいるからです。また、多くの手作りの道具は、くたびれてきても研ぎ直しができたり、柄を交換したりでき、捨てずにずっと使えることが魅力です。また、その侘びた風合いは、自分だけが使い込んだ証とも言えます。長く語りましたが、端的に言えるのは、私は手作りの道具が大好きだということ。この気持ちが一番大事ではないでしょうか。スタッフたちにも「好きを極めよう」と指導しています。
親方・米山拓未の道具
引き続き、親方・米山拓未が愛用している道具について解説します。
鋏・キリバシ
米山:修行時代や独立してからすぐの頃は、何を使えば良いか試す日々でした。作り手としては、定番の岡恒から始まり、鎌倉の正宗や京都の菊一文字、重春など、形としては大久保型や津島型など、今思い出せばよくあれだけ試したなと思います。今のようにインターネットがある時代ではなかったので、誰かから聞くしかないのですが、若い頃の私の周辺には鋏を語れる人がほとんどいませんでした。
そんな時に出会ったのが、京都の野中鉄次郎さん(先代)の鋏です。切れ味も音も最高で、今でも最高峰の鋏だと思います。でも、打ってもらった数年後に引退してしまい、当時は当代の野中さんが後を継いでいなかったので、メンテナンスが頼めなくなってしまいました。
同時期に先代の安広の鋏を実際に京都まで行って握ってみて手にしっくりくる感覚がとても気に入りました。そのご縁で鋏は安広と決めて今に至ります。
使用しているのは、輪鋏・キリバシ・瓢箪型のすべてを使っていますが、それぞれ刃を5分変えて柄の長さも変えた特注品。全部で10丁ありますが、現場に持って行くのは用途に応じて2丁ずつです。
地鏝・目地鏝
米山:最初は町の金物屋さんで買っていましたが、品質には満足していませんでした。地鏝は三和土などで使うと、付け根が弱く曲がってしまうことが多くありました。
また、目地鏝も先のテーパー(角度)や形状などが使いづらかったので、安広を知ってからは、安広に作ってもらったものを使用しています。目地鏝は自分でグラインダー加工したオリジナル仕様にしています。やはり、鍛冶屋が叩いて鋼の密度を高めたものは、強度もあり、泥などが付着しづらく使いやすいです。
土木道具・タコ
米山:基本的には自作しています。材料は、庭の伐採作業で出たクリやケヤキの太い枝や幹を使います。使いやすさはもちろん、細かいフォルムなども自分好みを追求できるので、自作道具は楽しいですね。
石に使うバールは、愛知県の近藤石工道具のものを使っています。石道具専門の鍛冶屋さんなので、各所の作りが本職用です。
石道具
米山:最初の頃は、知識も経験もなかったので金物屋さんや道具屋さんで売っている、みなさんも見たことがある青い道具を買っていました。当然、弱いのでガンガン石の仕事ができるわけではありません。そんな時に知り合ったのが、地元・横浜の杉本吉十郎です。石工道具は色でメーカーが分かりますが、黒いものです。地元愛で応援の意味もあり、石道具のほとんどは杉本吉十郎で揃えてきました。叩いた瞬間の微妙なフィーリングとしては、他社よりソフトな印象で割れた石が跳ね返ってくることも少なく、とても気に入っています。うちは、セリ矢とマメ矢も吉十郎です。
左官道具
米山:使う場所により、使用するメーカーを変えています。土塀には京都の坪田金物の鏝を使います。やはり、庭師道具専門の道具店なので、すごく使いやすいです。洗い出しには人造ですが、西勘のものを使用。こちらは使い慣れているからということが理由です。最後にコンクリートやモルタルをならす鏝ですが、こちらは材料の特性上、市販の鏝にしています。
大工道具
米山:大工さんと庭師は、同じものを作ろうとしても最終形は大きく異なります。庭師が作るものは、良い意味でいい加減なところが味になっていきます。対して大工さんは、きっちりと直線的な仕上がりになることが特徴。当然、大工道具はそのきっちりとした直線的な仕事のパートナーということになります。大工道具も凝れば面白いことはわかっていますが、私は庭師ですからちょっとよい加減な仕上がりになるように最高級のものは追い求めていません。そこそこ以上の三条のものを使用しています。
ひとつだけこの考え方から外れる道具があります。それは手斧(ちょうな)。木材の面を荒く出すための伝統的な道具ですが、これは名栗という仕上げのために絶対に必要な道具です。手斧は、いまは亡き最後の手斧鍛治と呼ばれた高木さんのものを使用しています。
竹加工道具
米山:庭師が竹を扱うときに必要な代表的な道具は、菊割、竹割鉈、竹挽きです。菊割ですが、多くの市販品は鋳物でできていますが、これは弱く割れやすいのですぐに使わなくなりました。刃が鋼でできている京都・カネブン製の菊割を愛用しています。竹割鉈は熊本の上米良鍛冶屋のものを使用しています。なかなか良い物と出会えないと苦労している時に、インターネットで発見しました。かなり細かく好みを伝えて作ってもらったのですが、ドンピシャで使いやすいものを作っていただけました。以来、愛用しています。およそ100年の歴史という点も気に入っています。竹挽き鋸は、京都の菊一文字のものです。
その他の細工道具
米山:あまり周囲の庭師も使っていないのですが、歴史的に職人の手仕事に欠かせなかった銑(セン)は、かなり愛用しています。かなり慣れないと使いこなせませんが、竹を削ったり木の皮を剥いだりする時に使うと、仕上がりもスピードも他の道具にはないレベルを追求できます。米山庭苑の門松は、先端部分のラインの形状を徹底追求していますが、これは銑がなければできないものです。ただ、銑を使う選択をすること、技術的に習熟することには努力が必要でした。直線形状もしくは意図したカーブを削り出せるノーマルの銑以外にも、桶屋さんが断面カーブを一気に削り出すために使う内銑も使っています。また、竹の細工のために使う小刀も好きな刃物のひとつです
その他の伝統的な道具
米山:写真の三又とチェーンブロックは、クレーンなどの重機が入れない現場で、石などの重量物を運ぶために、かなり昔から使われてきた道具。ご高齢の方がおられるご家庭で庭を作ると、「懐かしい!」と喜んでくれることが多くあります。米山庭苑では、皮を剥いたヒノキ製の10尺丸太を支柱に使用しています。安全性も伝統も大切にしているからです。
庭師はたくさんの道具を使用します。庭師の専用道具だけではなく、石工道具、大工道具、細工道具など、かなりの数の鍛冶屋さんやメーカーさんがあってこそ、私たちの仕事は成り立っていると考えてきました。これからも、素晴らしい日本文化を守るために、伝統的な道具を使用した伝統的な工法を次の世代に継承していきます。みなさまのお庭でも、これらの道具が活躍しますので、よろしくお願いいたします。